原発事故への報告書が発表され、それに対して各界、各層の多くの意見が報道されている。多少専門的な部分も多いが原発に関しては専門的にならないと真相に迫れないのでその点はご容赦願って付き合っていただきたい。筆者は、土木専門家として私見を述べる。
環境エネルギー政策研究所の田中信一郎氏の記事を要約・抜粋する。
『東京電力の副社長が、福島原発への津波が少なくとも高さ14mに及び、「未曾有の津波」だったとの見解を示した。
東京電力では、原発への津波について、第一原発で最大5.4〜5.7mの想定が前提だったという。そして、この想定は土木学会の指針に基づくもので、そこから「未曾有の津波」との表現が出てきたようだ。
つまり、土木学会指針に基づいて適切に対策していたものの、土木学会指針に基づく想定を3倍近く上回る津波によって
原発事故が引き起こされたとの見解を、武藤副社長は示したのである。
この東京電力の見解を支えているのは、土木学会指針という一点である。
土木学会という言葉は、「第三者性」と「学術性」を聞く者(国民)にイメージさせる。すなわち、電力事業者の利害と無縁の専門家(=第三者性)が、純粋に科学的視点に基づいて策定した(学術性)指針のように思わせるのだ。
しかし、土木学会指針は、本当に「第三者性」と「学術性」を備えているのだろうか。
この部会のメンバーは、ホームページで公表されている委員名簿によると、「電力事業者の利害と無縁」どころか、当事者が多数含まれている。東京電力に至っては、委員だけでなく実務を担う幹事にもメンバーを送り込み、子会社からも送り込んでいる。
要するに、土木学会指針は「第三者性」が強く疑われるものである。
そもそも、土木学会には一つの特徴が伺える。それは「発注者が主役」ということである。
会員数を見ると、建設業が4分の1、建設コンサルタントが4分の1で受注者側が半数を占めている。発注者側は国の官庁や独立行政法人、自治体、鉄道、道路、電力などを合わせて4分の1である。電力はその中でも少なく、2.92%に過ぎない。
行政機関も発注者であることから、発注事業者が多くの理事を出していることが分かる。ちなみに電力事業者は、東京電力、東北電力、関西電力からそれぞれ理事が出ている。会員構成から見ると、土木学会原子力委員会津波評価部会におけるメンバーは電力事業者の出身理事が多いことは明白である。
このように「発注者が主役」という環境下で策定された指針には、「学術性」について大きな疑念が生じる。それは、科学的視点だけでなく、「対策コスト」という視点も加味されて策定されたのではないかという疑念である。
「土木学会指針=科学的視点×対策コスト」という式は、発注事業者(電力事業者)の許容する範囲内で、指針が評価・策定されることを意味する。当然、科学的な基準を弱める方向で作用するものだ。
以上のとおり、利害当事者が策定に関与し、発注事業者の影響が強い学会で策定されたという事実は、指針が「お手盛り」なのではないかと疑わせるのに十分である。
よって、土木学会指針を根拠として、東京電力が福島第一原発の事故における保障を免責されるということは、決して認められるべきでない。』として意見を述べている。
これに対して、公益社団法人土木学会の会長坂田憲次氏は、反論しているのでこれも抜粋する。
『近時インターネットや新聞報道において、「土木学会の原子力土木委員会津波評価部会は、電力会社とその身内が大半を占めていて、「第三者性」が疑わしい」との趣旨が述べられ、委員構成を示して「このメンバーが津波評価部会と言われても、とても中立公正に指針が作られたとは思えない。」などと結論している。しかし、これらでは土木学会の報告書の内容に関しては一切触れておらず、メンバーに電力関係者が多数含まれていることのみからの批判を展開している。
この報告書を作成した委員会に電力会社の委員が数多く入っているのは、原子力発電所の発注者として注文をつけるためではないかとの意見がある。しかし、それぞれの委員は原子力発電所の安全を担当する専門家であり、原子力発電所の計画・設計に当たって必要な数値や注意事項を実務家の視点から検討するために参加している。
さらに、報告書を一見すれば分かるように、報告書の内容は、過去の津波の網羅的な調査の上に立って、津波波源(津波を起こす地盤の範囲)の設定から数値計算による設計津波水位の標準的な設定方法を客観的・体系的に取りまとめたものであり、そこに利害関係の入り込む余地はないと言える。
したがって、本報告書が「お手盛り」なのではないかといった見解は事実無根であり、科学的見地から研究し、報告書を発表している土木学会の活動に対する誤解である。』と記事を掲載している。
なぜ、二つの意見を取り上げたかというと、衆議院議員の河野太郎氏が公式ブログで「原子力をめぐる不透明さ」の中で、「メンバー構成を見ても、とても中立公正に指針がつくられたとは思えない」と言っている。また、「調べれば調べるほど、原子力関係のあらゆる場面でこのような疑わしいことが起きている」とも言っている。
IAEAの報告書の中でも、なぜ、貞観地震に際しての津波高を考慮せず、それより低い想定値したかの疑問が出ている。
土木学会の会長のコメントは立場上からの発言であり、田中氏からの疑念に対する回答にはなっていない。また、数値計算で津波を設定しているから、科学的であると言っているが、本来、シミュレーションは既往の津波例を補完するものであり、安全側を考えても既往例より小さい値を採用したことに対してはなんら科学性も見いだせない。ただ、国民を煙にまく所業にすぎない。この点がIAEAからも指摘されている問題である。
ここで、筆者は申し上げたい。
確かに、日本的な組織、体制はあるだろう。一朝一夕で改革できるものでないことは確かである。しかし、このソフト面での改善がなされなければ、どのような報告書を提出しようが、国民、世界の不安を払しょくできるものではない。
このことから考えれば原子力事故における日本の対応は全世界が注目するものであり、一時しのぎの繕いで済ませることができないことは明白である。
この点を関係者は真摯に考えていただきたい。子どもだましのよう答弁は、今のインターネットの世の中では通用しないということを肝に銘じていただきたい。
一番、簡単で即効性があるのは、情報を公開することである。
それから、時間をかけて組織・制度を見直していけば良いと提言できる。
世の中には市井に埋もれた専門家が数多くいることを認識して・・・。